白馬村の湧水分布

白馬村の代表的な湧水分布を図4に示す。湧水はそれぞれの湧出機構から山地湧水,扇状地扇端湧水,崖錐末端湧水,段丘崖湧水に分類できる。ただし、山地湧水は複雑な湧出機構のため、ここでは一括してまとめた。例えば、山地から平野部への地形変換点からの湧水,谷頭からの湧水,断層・地層・節理からの裂か水などである。

湧出地区は、山地湧水が八方山,仁科山地,佐野坂丘陵,太郎山,郷尺窪山,岩戸山など、扇状地扇端湧水が飯森,深空,白馬町,蕨平,大出,柳林,森上,塩島など、崖錐末端湧水が佐野,沢渡,飯田など、段丘崖湧水が森上,塩島,切久保などである。

白馬村における湧水の分布を湧出タイプ別にみると次のようになる。

(1) 山地湧水

a.飛騨山脈
湧出地点は八方尾根東側 4か所(H 1~H 4)と仁科山地の鳥網沢源流(SN 1)、佐野坂スキー場(SN 2)の 2か所である(図 4,8,11)。断片的な調査のため、この地域の湧水数は少ない。湧出機構は谷頭湧水型,傾斜変換点型,裂か水型などが考えられる。
涵養域は湧出地点より山側のある限られた狭い範囲と推定できる。それは水質が低濃度のことから滞留時間の短い水と考えられるためである。
湧水の利用は鳥網沢源流では生活用水,生活補助用水として利用されている。八方尾根の湧水は湿地や高山植物にとって重要な水源となっている。
湧水の水温は 5.8~15.1℃、電気伝導度は26.6~42.5μS/cmで低濃度の値である。水質組成は仁科山地の湧水でNa++K+-HCO3-型、または Ca2+-HCO3-型で、汚染指標のNO3-は2.3mg/l以下である(図14,15)。

b.小谷山地
湧出地点は山地ごとの断片的な調査結果であるが、浅間山(SN 1~8),岩戸山(I 1~ 5),郷尺窪山(T 1~60),太郎山(T 1~36)となっていて、山地全域に広く散在している(図 6,9,11)。湧出機構は異なる地層の境目,断層や節理などの割れ目,傾斜変換点などが考えられる。断層の割れ目からの湧水はSN1,SN6,SN7,SN8で、断層線に沿って分布している。その他の湧水はまだ資料不足のため湧出機構を特定することはできない。
涵養域は比較的狭い地域と考えられる。それは湧水が低濃度なことと、湧水温が気温に強い影響を受けて年変動が大きいことから、滞留時間の短
い浅層地下水と考えられるためである。
湧水の特徴は、現在、長期観測中の太郎山系湧水(T30,T31,T34)でほぼ不断泉である。湧水は、あるいくつかの標高から湧出する特徴をもつ。その標高は725,750~770,790,850,900,950mの6つである(図 5,10)。なぜ、このように標高別に湧出するのか現段階では不明である。
湧水の利用は簡易水道,生活補助用水として、いくつかの湧水が利用されている。湧水が利用さ

れている地区は内山,三日市場,堀之内,通,峰方である。
湧水の水温は 5.3~13.7℃で、年間では気温に強い影響をうけることがわかっている。電気伝導度は多くの湧水で20~60μS/cmの範囲で低濃度である。水質組成は太郎山地の湧水で、Na++K+- HCO3-型、汚染指標のNO3-は0.5mg/l以下である(図14,15)。

c.佐野坂丘陵
湧出地点は親海湿原(S 1),小田原(S 2~S 6),青木湖北東岸(S 7,S 8)である(図 11,12)。湧出機構は断層の亀裂による裂か水(S 1),地層の境目(S 4,S 5),傾斜変換点(S 3,S 6,S 7,S 8)などが考えられる。

涵養域は、S 2~S 8の湧水では小谷山地の湧水と同じく浅層地下水で、その涵養域は狭い。ただし、S 1とS 4は明らかに他の湧水と涵養源または涵養域が異なる。それは前者の場合、湧水温が常に 9.4℃前後で年較差が約0.4℃と小さく、水質濃度の値も他と比べて高いこと、後者の場合の湧水温は年間を通じて 9℃台で変化が小さく、水質濃度の値が比較的高いことから、これら2つの湧水はかなり滞留時間の永い水が湧出していると考えられる。

湧出機構は前者の場合、南北に走る神城断層の割れ目からの裂か水と考えられる。涵養域は、その断層線の周囲が考えられるが、断層線が青木湖に到達しているため、涵養源のひとつに青木湖が考えられる。後者は内山亜累層と佐野坂丘陵崩積層の境目に湧水が位置しているため、地層境界を通ってきた水と考えられる。その境界が南で青木湖に接しているため、涵養源のひとつに青木湖が考えられる。

前者の親海湿原の湧水(S 1)については、従来から青木湖の漏水が関わっているといわれてきた。過去の研究では、田中(1930)によって姫川源流の水源は南の青木湖に由来する可能性があるとしている。白馬村誌(1996)によれば「昭和中期に伊藤は青木湖に食塩を投入して、その動向を追ったが判明しなかった。」と報告している。地質調査所(1955)の研究では、ウラニンを使用して親海湿原の水が姫川源流とつながっていることを証明した。佐藤(1996)は青木湖の水位変化と親海湿原の湧水の流速の関係から2つのつながりを推察している。また山下(1985,1995)や平林(1989,1995)は、この問題について地形・地質の視点からアプローチを試みているが、いずれも完全な解明には至っていない。

筆者は上記の2つの湧水を中心に青木湖漏水についての研究を現在おこなっている。結果がまとまり次第、別の機会に報告する予定である。

湧水の特徴としては、湧水全てが不断泉で、長野県自然保護地域内の親海湿原湧水やS 7,8の湧水では冬期に国道148号線の佐野坂に融雪剤として散布する塩化カルシウムの影響が強く出てきている。

佐野坂丘陵の湧水は農業用水や環境維持用水として利用されている。

湧水の水温は 9.0~17.0℃、電気伝導度は28.9~109.4μS/cm、水質組成は融雪剤としての塩化カルシウムの影響により、Na++K+-Cl-型である(図14,15)。また、汚染指標のNO3-は0.1~5.8mg/lである。

(2) 扇状地扇端湧水
湧出地点は犬川・平川・松川扇状地扇端の標高 680~720mに帯状に分布している(図 7,8)。湧出地区は、塩島・森上(F 1~4),大出(F 5~7),蕨平(F 8~10),深空(F11~13),飯森(F14~F18)である。

湧出地点と神城断層とは強い関係にある。それは、断層線を境に隆起した小谷山地によって、扇状地を流れてきた地下水が堰き止められ、扇端で地下水が湧昇流となり湧水帯を形成していることである。

主な涵養域は3つあると考えられる。1つめは扇頂・扇央で河川水の伏流による地下水への涵養、2つめは山地からの地下水の涵養、3つめは水田からの地下水涵養が考えられる。実際の涵養域では扇頂・扇央は二股,八方,倉下,エコーランド,みそら野,源太郎,五龍遠見など、山地は岩岳山,八方尾根などである。

湧水の特徴は、塩島・森上~蕨平(F 1~F 9)のそれらでは、湧水地点が帯状に連続していて不断泉である。これに対して、蕨平以南の船山~飯森(F10~F18)の湧水は、秋になると枯渇する一時泉である。後者の湧水が枯れる原因は、平川扇状地扇頂の源太郎地籍において、井戸水(0.06m3/sec)を水道水源、河川水(2.7m3/sec)を農業用水として大量に取水しているためである。

また、これらの湧水地には白馬村の自然がよく残された林地・湿地がいくつかある。生活補助用水としての役割は低下したが、白馬盆地におけるあるがままの自然が残る場所として貴重である。これらの湧水地は動植物の憩いの場として、環境維持用水として、平地観光資源として重要な役割を持つと考えられる。しかし、涵養域は観光産業や住居などの中心地である八方や白馬町の集落があるため、地下水汚染や地下水取水など、湧水の量・質への影響が懸念される。貴重な湧水地は森上・塩島(F 1~4),柳林(F 5),大出(F 6~7),後田(F 11)前田(F 12),中島(F 14)の湧水である。

湧水の利用は大出や森上・塩島などで生活補助用水と養殖に、蕨平では育苗と養殖に利用されている。

湧水の水温は 7~13℃,pHは6.0~7.8,電気伝導度は60~240μS/cmの値の範囲にあり、水質タイプはMg2+-HCO3-型である(図14,15)。この型はわが国において特異な水質タイプで、涵養域の大部分がMgとFeを多く含む蛇紋岩であることがその原因である(図 3)。また、汚染指標のNO3-は2.6~7.7mg/lである。

(3) 崖錐末端湧水
湧出地点は仁科山地東側に広がる崖錐末端(Tl 2~12)と飯森地区西側に広がる崖錐末端(Tl 1)で、湧出標高は740~750mである(図 8,11,13)。

涵養域は前者の場合、仁科山地東麓などの緩斜面、後者は矢崎山南の緩斜面である。涵養源は沢水など山体からの水を地下水涵養している。

湧水の特徴としては帯状に湧水分布していて、ほとんどの湧水は不断泉である。また、南端には名水百選に選ばれている姫川源流湧水(Tl12)がある。この源流周辺は春先にフクジュソウ,ニリンソウ,カタクリの草花が咲きそろい多くの観光客を集めている。その他の動植物は河床にオランダガラシ,バイガモなどの水生植物が繁茂し、水中にはイワナやスナヤツメが生育している。青木湖の漏水が証明されるとより観光資源のアピールができる地域であると考えられる。

湧水の利用は佐野・沢渡地区で生活補助用水,わさび田や養殖魚のための産業用水などとしてである。

湧水の水温は 7~13℃,pHは5.7~7.3,電気伝導度は45~100μS/cmの値の範囲で,水質タイプはCa2+-HCO3-型である(図14,15)。また、汚染指標のNO3-は1.6~7.8mg/lである。

(4) 段丘崖湧水型
湧出地点は和田野段丘(TS 5),塩島段丘(TS 1~4)の段丘崖にみられる(図 8)。湧出標高は和田野で750m,塩島で670~680mである。

涵養域は各段丘面と、段丘に連続する地形からである。涵養源は段丘面上からの降水と段丘に連続した地形からの地下水が考えられる。湧水の量と質は、涵養域における段丘面の土地利用と段丘面の広さに強い影響をうける。

湧水の特徴としては、和田野段丘崖湧水(TS 5)の周囲に約6,500年前の古代遺跡があったことである。

これらの湧水は、ほとんど利用されていない。

湧水の水温は10.3~12.8℃、電気伝導度は50~180μS/cmの値の範囲にある。和田野段丘崖からの湧水(Tl 5)は、和田野の観光開発などの影響をうけて枯渇の危機にあると、田中(1989)が報告している。

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